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【漫画】『鬼滅の刃』の影を辿る『吾峠呼世晴短編集』感想

吾峠先生の絵はちょっと苦手だなって思った。

 

しかし、独創性が溢れたどの一遍一遍も個性があり、薄っぺらい内容ではなく時には考えさせられ、真理を突く表現が違和感なく軽く、的確に表現されていた。

例えば、JUMPトレジャー新人漫画賞佳作に入選し、『鬼滅の刃』の元ネタと言われている一遍目の『過狩り狩り』。

愈史郎と珠世を始め、『鬼滅の刃』でも重要な存在である鬼が出てくる。

そして、鬼を退治する、鬼殺隊らしき『悪鬼滅殺』と掘られた刀を持つ男が現れる。

しかし、その男は右腕を失っている

その時点で、その男の過去に何があったのかという”違和感”を生んでいる。恐らくこの男が主人公に当たるのだが、冒頭では主人公からの視点ではなく。珠世と他の鬼との対話から始まり、その時点で世界観の重たさが十分に伝わってきた。時代の背景として大正時代を舞台にしているため、日本人なら誰もが感じる空気がそこにはあり、一気に惹きつけるような求心力があるだろう。

それでありながらも右腕のないキャラクターの特徴だったり、話の途中から始まる場面で始まるのは新人漫画賞に入選するための重要な要素だっただろう。

そして、その時代背景と吸血鬼という新たな組み合わせが現在『鬼滅の刃』として急成長したのは、やはりジャンプの主人公らしい普通の男の子『竈門炭治郎』というキャラクターのお陰だろう。

『過狩り狩り』の主人公は無表情でジャンプが求めている年齢層にはハマりにくい。こんな主人公にハマったらみんな無表情になってしまうだろう。

 

二編目の『文殊史郎兄弟』では殺し屋の文殊史郎兄弟二人が少女から男を殺して欲しいと依頼を受けてとあるアジトに乗り込んでいくのだが、兄はピアノが好きで、ずっと弾いていたいというキャラクター、弟はアジトに乗り込んで先頭の最中にカマキリのような変な被り物をしていて物語だけでなく、キャラクターを映えながらストーリーが進んでいくのも暗いながらもポップに感じて読み易くなっている。

 

三篇目『肋骨さん』では、身体中に巻き付いた羽衣を自由自在に操り武器にする主人公と、ハサミを武器にする敵が出てくる。

この描写では西尾維新の初期の『人間シリーズ』を想起させたが、キャラクターのたたずまいから担当編集者がインタビューでも答えているようにジョジョからの影響なのかもしれない。(私はジョジョは分からないので近々観賞しようと思っている)

あと河童がもっと可愛ければいい。

 

四編目の『蝿庭のジグザグ』。

言った言葉通りに相手を操る能力を持ったキャラクターと、『種』を使う主人公。

種では『呪力』を吸い取ったり、『能力』を種にして吸い取ることが出来る。更に、種を『木』にし、自由自在に『武器』にするのは漫画ならではの柔軟な描写で面白い。

 

四作品を読んでだが、漫画家としてなるべくしてなったという趣が十分に感ぜられる表現力の幅を感じた。もちろん、表に出ていない作品もたくさんあるのかもしれないが、ジャンプ作品としてではなく、映像化されても充分見ごたえを感じるだろう。

主にシリアスな表現が多く、『鬼滅の刃』のような笑える要素は少ない。しかし、自由に動くキャラクターしかり、四編だけにして、時代物、現代的な世界観を用いるところは漫画家の表現の基礎なのかもしれないが、かなり自然と読めるように落とし込んでいるのは、技術とロジックがあり気なのだろう。それゆえにキャラクターが映えるようし仕上がっているのは言うまでもない。

時々、世界観の主張が強すぎて、読みにくい漫画もある。それが、本作品からは意外にも感じられなかった。


 

記事の冒頭で絵が苦手だと言ったが、キャラクター、展開の表情の切り替わりの波が綺麗、『起承転結』がはっきりし、『隠す』という事も巧みにされていて、荒木飛呂彦短編集のような表現力を想起させた。(しかし、面白いが、万人向けかというとそうではない。だが、どれも着実に確信に繋がる趣の感じる表現力とストーリー展開の、キャラクター、世界観の発想は鬼才だと感じる。実は作者はワニでも人でもなくやはり鬼だった。

表紙のデザインである『文殊史郎兄弟』の兄の方の姿勢とかも荒木飛呂彦みを感じる。


  


 

 おろ?なんか違うものを紹介してる気が。。

 

参考記事:

【インタビュー】『鬼滅の刃』大ブレイクの陰にあった、絶え間ない努力――初代担当編集が明かす誕生秘話 - ライブドアニュース