【エッセイ】星野源:著『よみがえる変態』で感じる性と生
ラノベ一冊読み終えて久々にエッセイが読みたいでござると思いながらのほほ~ん♪と本屋へ行って小一時間うろついて北野武さんや村田沙耶香さんのを探したりして手軽な文章が良いなーと思いながら探していたら星野源さんの『よみがえる変態』がおすすめ本として表向きに棚に置かれていてついエッチな話を期待してすぐ迷わずに購入した。
以前には『そして生活はつづく』も読んでいたので源さんの手軽な文章は知っていた。
今回も軽快で滑稽で気付くと真面目に考えさせられたりと星野源の文章にあっという間に時間を飲み込まれた。
そんな『よみがえる変態』を読み終えたので感想を書いていきたいと思います。
自分が買ったのは2019年発刊の文庫ですが、元は2014年発刊の単行本『蘇る変態』を文庫化したものです。
また、内容自体の初出は雑誌『GINZA』連載2011年~2013年から加筆修正されたものです。
性
本編を読み始めるとタイトルの通り(期待通り)に下ネタで始まる。
星野源はラジオでも下ネタ発言で有名だと思いますが、今回もなんとも生々しいけど真面目な語りに惹かれてしまった。
性に対しても真摯な姿勢でなぜ『お〇ぱい』と呼ぶのか、語源まで調べている彼には脱帽である。
A〇女優についての話では、
・なぜそんな仕事を選んだのか
・結局、借金とかでお金が欲しいからか
・もしくは、ただのヤ〇マンなのではないか
・どちらにしろ社会的に最低な人間
・一回でもAVに出た女は、一生人並みの幸せは味わえない
という知人の言葉に対して、星野源自身は、
私は音楽が好きで、芝居が好きで、文章が好きで、それを仕事にしている。それとセックスが好きで仕事にしていることに違いは1ミリもないと思っている。どの仕事もスタッフや演者の頑張りがあって初めて成立するものだし、好きなものを仕事には大変な努力が必要だ。そこには挑戦するのは難しいけど、素晴らしいことだと思う。
多少乱暴な言い方だけれど、私は人前で歌う事と人前でセックスすることは同じだと思っている。人前で表現するっていうのは恥ずかしいことだ。そしてそれでお金をもらうという事も。どちらも同じように堅気の職業とは言えないだろう。そこに善し悪しの差はない。
と言っている。痺れる。
下ネタな筈なのにまるで下ネタに聞こえない。
このように人の仕事に対しても真面目な姿勢で向かい合っているの事は私たちにも必要なことかもしれない。
人の仕事は人の仕事で合って、一生懸命であることに対して、「善し悪し」を他人に言われる筋合いなどない事だろう。
星野源さんは俳優をし、ミュージシャンもしてこうして文筆業まで行っていることに対して真面目である証拠だと思う。
テーマに偏りはあれど、星野源さんの言っている事は他の仕事に対しても当てはまることは言うまでもない筈だ。
人生観にまで関わってくる深い話だ。
生
2012年12月16日、星野源さんはくも膜下出血という病気になった。
ファンだけでなく、星野源が病気になったことを当時ニュースでやっていたから知っている人は多いのではないだろうか?
症状はざっくりな説明をすると脳内で出血してしまっている、かなり重い病気だ。
手術は無事に成功したが、後遺症含めて全快の可能性は低く、実際に後遺症は残る。
しかし、星野源は仕事で予定していたタワーレコードのポスター撮影を「面白いから病室でやろう」と言ったらしい。
ここでも人柄を感じる。最悪の状況でも全力で仕事に向かっているんだろうと。
手術は成功したが、後日、再発が宣告された。
前回より重く、国内に施術できる医者が少ないらしく、医者探しせねばらなかった。
医者探しは難航した。やはり難しい手術なのだなと気持ちが落ち込みそうになる。結局、以前から様々な事でお世話になっていた、笑福亭鶴瓶さんに電話で相談に乗っていただいた。
そして鶴瓶さんに先生を紹介をしてもらい、実際に対面し、手術してもらう決断をした。
ただでさえ重たい病気で、手術の成功が難しく、医者を決めることは重要で安易にできることではなく、決断したいきさつが面白かった。
診察室に入ると星野源は手術してくれる先生、K先生にこう言われた。
着席すると、先生は勢いのある口調で言った。
「手術やりたくないです」
「ええええ!」
唐突すぎて、コントみたいなリアクションをしてしまった。しかしそこから、いかにこの難しいかの説明が始まった。
(中略)
説明をしながら、K先生は唐突に違う話をし始めた。
ち〇この話だ。
重たい脳の話題から、気が付けば話は脱線し、「誰か死んだふりしていてもちんこを見ればどれくらい脳が生きているかわかる」的な、いわば学術的下ネタになり、後ろの女性看護師がクスクス笑う中、私はいつの間にかK先生の話に爆笑させられていた。
しかし説明では手術がどれほどシビアなものなのかと言う話が合り、それに対して星野源が気持ちが落ち込んでいる所、目をじっと見て先生は言った。
「でも私、治しますから」
予想外の言葉だった。
「最後の最後まで、何があっても絶対に諦めません。見捨てたりしません、だから一緒に頑張りましょう」
主治医の先生には執刀医は自分で納得のいった人を選んでくださいと言われていた星野源はこの先生の言葉によって決心した。この先生に手術を任せようという事を。
はっきりと正直に「手術やりたくないです」とは言っていたが、真剣な姿勢があるのが分かるとガラッと信用できるだろう。
星野源のような感情豊かな反応も相まって明るい話になっているし、この後に執刀医に決まった先生の言葉は星野源の文章越しからも十分に伝わった。
「何も考えずに楽しくいきなさい!」
星野源はその後先生に手術してもらい、数日頭痛、嘔吐が続いたが復帰まで至った。
その入院の間、看護師の女性に面倒を見てもらい、その女性がファンだったという話も爆笑ものだった。
スッとした表情でテレビに出ている星野源だが、『よみがえる変態』で散々いう事を言っている。
彼の人生観、また、話に登場した執刀医との出会いは大きく重要な存在だと思う。少なくとも彼のユーモアの一部になっていると思う。下ネタが下品すぎなところはユーモア故で、茶目っ気さえ合って変に下品ではないと感じた。
2020年、今こうして楽しく生きている星野源の姿勢はそういう出会いから築かれていると思うと、とても貴重なもので、社会現象的に人々を繋げた『うちで踊ろう』が誕生したのもそういう時期だったからこそ、彼の感性がありなるべくしてなったものだと思う。
最後に、ユーモアと真面目を織り交ぜながら余計な説明のない星野源の文からは”生命”の繊細さと、重要さは重く感じ、だからこそ身軽になれた気がする。
とりあえず、本書を読んでおきながら彼の楽曲をすべて聴いていないのでちゃんと聴こうと思います。
そこにも星野源からのメッセージがあり筈なので。
読了までの時間2時間程度