【心理学】中野信子:著『人は、なぜ他人を許せないのか?』~正義中毒とSNSと炎上と~
(どうも、ツイッターで傍観梟とか堅苦しい名前からアウルという名に変更しました。
ブログでもこちらの名で活動していきますので以後改めてよろしくお願いします。)
今回はこちら、脳科学者 中野信子:著『人は、なぜ他人を許せないのか』について書評していきたいと思います。
まず、本書では人を許せない事を撲滅出来る方法、結論は書いてありません。
幾つかの心理学や科学的な論点から”なぜ他人を許せないのか”、”気持ちを緩和できるヒント”が書いてあります。
- 人はそもそも他人を攻撃してしまう性質
- ネットの発展と誹謗中傷
- 国によって正義中毒の性質は違う
- 正義中毒は良い部分が見えていない
- 個人より集団が優先されやすい
- 集団とバイアス
- 正義中毒・対立・ドーパミン
- 正義中毒をコントロールする方法
- 読み終えて感じた、感じていた見解
人はそもそも他人を攻撃してしまう性質
人間というのは、そもそも人を攻撃することに快感を覚えてしまいやすい性質を持っているからです。
人に制裁を加えることによって、快楽中枢という部分が刺激され、快楽物質であるドーパミンが放出されます。
そのドーパミンが放出されることによってクセになり抜け出せなくなってしまい。何度も繰り返してしまうのです。それを本書では”正義中毒”と呼んでいます。
この正義中毒とのは誰にでも起こり、人間ならば当然の現象で、仕方がない事なのです。
その仕組みの比較として、ウサギは大脳が正義中毒を起こすには小さすぎるようで、人間のような正邪の判断ができないようです。
しかし、それに対し人間の大脳は成長してしまったばかりに”大脳新皮質”と呼ばれる思考を司る部分が存在し、そのおかげで人間は”生きている意味”を考えたりするようになってしまったのです。
ネットの発展と誹謗中傷
そして、この正義中毒というのはネット、SNSの発展により、顕在化させていっています。
最近では芸能人に対しての誹謗中傷も特に目立ってきています。
不倫、不謹慎発言、さまざまなスキャンダルについて、一般人がネット、手軽なSNSでコメントし、見える化、顕在化させてしまったという事です。
少しでも間違った、自分と相反した発言をしただけで誹謗中傷、そして「炎上」が発生します。
今日芸能人が良かれと発言したことが思わぬ受け取られ方をし、たちまち炎上するという事がよく起こっています。
当然、それは芸能人に限らず、一般人のいわゆるバズっている内容にコメントには心無い言葉が向けられたりしていることはざらではありません。
高級ブランド品の所持品の写真を上げれば、「自慢だ!」
少しでも気の緩んだ事を言えば「甘えだ!」
ママタレントが投稿した内容には「教育の仕方が非常識だ!」
と尽きぬところを知りません。
そしてその炎上ている内容に対して誰でも簡単に参加出来てしまいます。
その参加する者の中では多数派に流されてしまっている人たちがいます。
更に、SNSの手軽さがあるおかげで正義中毒にかかりやすくなってしまったという事もあるようです。
国によって正義中毒の性質は違う
また、国によって正義中毒は誰にでもなるが、誰を逸脱するかという基準は変わってくるようで、日本人は特に「みんなに合わせられない人」や「みんなと違う言動をする人」が愚かと考えられてしまいがちのようです。
著者の中野信子さんはフランスで仕事をしていた際の経験で、フランスの考え方を比較に上げており、フランスでは「みんなと同じこと」「意見を言わない」といった事が愚か、つまらないという風に捉えられるようです。
しかし、日本人は対立を恐れて自己主張を抑える傾向があります。
正義中毒は良い部分が見えていない
正義中毒者は、相手の主張の良いところを取り入れることがなかなか出来ず、正義が一つしかないと決めつけているという問題があります。
相手はバカだ、相手より自分の方が優れていると証明するために言葉を選んでしまいます。
その為、議論する余地もなく、誹謗中傷に発展してしまうのでしょう。
そして、時には権威者に従い、優秀なコマとして働いてしまうという事が正義であり、正義同士の争い、権力闘争、主導権争いのような場合もあるのです。
個人より集団が優先されやすい
日本人は空気を読んで、異論を言わないという問題もあります。
それは日本は個人の意志より、集団の目的の方が優先されやすいからです。
そして、いろいろな不都合な問題に口を出すような人がいたならば冷遇されがちで、言えなくなってしまう傾向にあるようです。
なぜそうなってしまったのかというその理由として、集団で力を合わせることが必要になってくる日本の地政学的特徴である、災害の多さがその要因とも考えられているようです。
災害のあった際は、集団で助け合い、生き抜くためにそのような心理傾向が生まれてしまったようです。そして、その状況で集団に迷惑、ルールに背く人間がいることが問題、不利益として考えられるようになってしまったのです。
そして集団で行動するとその周囲の行動に合わせなければいけないという心理が働き、これを「同調圧力」と言います。
少数意見の人に、多数派が従うように暗黙のうちに強制してしまうのです。
例として、同性愛者がカミングアウト出来ない事や、またそれを擁護しようとする人たちが冷遇されるのではないかと不安になり、言葉にするには勇気が必要で難しくなってしまっているというようなことも同じでしょう。
集団とバイアス
自分の属している集団にいると外側の人たちより良いというバイアスがかかってしまうものです。
そして、そうすると、外側の人たちはバカだと感じるようになります。
しかし、この自分の所属している集団(イングループ)、を優先し所属していない集団(アウトグループ)をバカだと考えるようになることに関しては、人間にはもともとこのような安全装置が脳に組み込まれているようです。
中野さんは、自身がアメリカで飛行機に乗っていた際に、自分の前の椅子下の自分の荷物を取ろうとした際に、「物取りかもしれない」と思われたのか、隣の白人男性が彼自身の荷物を遠ざけようとされたことがあったようです。
このように、自分の身を守るような機能はそれよりも優先されてしまうのが常です。
自分の集団であればそこまで警戒はしないが、それ以外に対してはこのような警戒心が働いてしまいます。
このような、自分のグループを優先してしまう事は”イングループバイアス”と呼ぶようです。
正義中毒・対立・ドーパミン
前述しましたが、そもそも人間の脳は誰かと対立するように出来ていて、自然な事。当然、人間はそれぞれ違います。
そして、他人を「愚か」、「優れている」と捉えるのはあくまで自分の基準を無理に他人に当てはめているだけで、実際、他人は異なっていて当然であるにも関わらず行ってしまいます。
当たり前ですが、そうしたところで相手が変わる訳もありません。
その為、相手を「良い」、「悪い」と判断したところで意味は無く無駄な事です。
しかし、やはりささいなきっかけで人を悪く言ってしまうのも人間の特徴です。
また、このような正義中毒が発生するパターンもあります。
例えば「お前が悪い!」「いやお前の方が悪い!」のような場面は見かけたことはありませんか?
対立する誰か、またはグループが存在することで、これも”正義中毒”に陥っているパターンのようです。
「我こそは正義、お前は不正義」という事が快感であり、お互いに対立しあうことによってドーパミンを出し合う状況を提供し合っている関係になってしまっていると言えるわけです。
そして、本当に相手がつぶれてしまうと困ってしまうのです。
正義中毒をコントロールする方法
正義中毒になってしまう原因として、加齢によって分析的思考、客観的思考を行う場所である、前頭前野が委縮していく事が原因という事もあるようで、そこからは完全に逃れることはできません。
前述している通り、誰でも誰かと対立したくなってしまうのは当たり前です。
ですが、それを防ぐ、抑制し穏やかに過ごす方法が無いわけではありません。
抑制する方法として、物事の捉えた方、発想を転換することが一つの手としてあります。
まず、自分自身が正義中毒者になっていることを自覚することが重要です。
「許せない」という感情を自覚することによって、客観視することができ、抑制できるようになるからです。
テレビ番組やSNSでも良いです。
もし見ていて怒りの感情を抱いた時、それが増幅してしまう前に一呼吸置きましょう。
そして、自分は中毒症状が強くなってきてしまっていると考えるようにしましょう。
このように、毎回立ち止まるようにすることによって、抑止力になる事でしょう。
また、前頭前野が加齢によって委縮してしまういう事ですが、前頭前野を鍛える方法もあります。
前頭前野は論理的思考、客観的思考を行う場所です。
つまり、論理的、客観的思考にそうせざるを得ない状況を置くことによって、衰えを抑制する期待ができるようです。
メタ認知を鍛える
前頭前野の働きを保つことによって、前頭前野の重要な機能である「メタ認知」を使うことができます。
このメタ認知とは、自分自身を客観視できるようになる機能で、これが前頭前野にあります。
このメタ認知を働かせるクセをつけることによって、「自分の言動は正しいか?」と問いかけることができ、前頭前野を鍛えることに繋がります。
そして、メタ認知を鍛える方法について説明していきます。
まず一つ目が、慣れている事を辞め、新しい事を体験してみる。また、慣れている事とは違う事を選んでみましょう。
慣れていることを行っていると、脳に刺激があまり入っていかず、前頭前野だけでなく、脳自体の活動が奪われていきます。
一方、新しい事に直面することによって、脳に活発に働く必要が生まれ、刺激が得られてメタ認知が働くのです。
例として、いつもと違う事をするとするならば、
・いつも帰っている道とは違う道で帰る。
・いつも行っているお店とは別のところへ行く。また、いつもと違うメニューを選ぶ。
特におすすめされているのは、不安定、過酷な環境に身を置くことです。
そうすることによって、未知状況や予測不可能の事態に巻き込まれたとき、それまでの知識や常識、社会的信用だけでは不十分であり、新たな情報や、科学的思考、客観的思考が必要になってきます。
普段通りの環境、普段通りの言動を行っていると、それが社会全体のルールだと錯覚してしまいます。
なので、こうして慣れていない事を行うという事によって、「違うことがある」という事を受け入れやすくなります。
そして、その状況に置くことによって乗り越えることができた時、成功体験を感じることができます。
また、この新しい環境に身を置く方法を体験するには、別の手段として自身が普段絶対に読まないような本を読むことによって体験できるのでオススメです。
更に、本のようにコストをかけず知識の偏食を防ぐ方法として行えるのは、ネットです。
ネットで出てくる広告は、普段調べているような内容で「あなたはこういうのが好きですね」と広告が掲載されて偏った知識にさせてしまう事があります。
まったく興味ないキーワードを調べてみると新しい情報を、ニュースが広告に出るようになり、知的偏食が防げるようになります。
食事で前頭前野を鍛える
前頭前野をキープするためにはオメガ3脂肪酸の積極的な摂取が重要になってきます。
このオメガ3脂肪酸が含まれているのは、サケ、マグロ、マス等々青魚に含まれ、またカキなどの貝類、クルミ、ナッツ類にも含まれています。
睡眠を取る
睡眠不足になると思考力、記憶力、学習能力が低下してしまいます。
その為、少しの隙間時間でも睡眠はとることをオススメします。
眠気と言うのは、睡眠ホルモンであるメラトニンによって起こります。
メラトニンが減ると、眠気が訪れます。そして、メラトニンが発生するためには、元であるセロトニンが必要です。
このセロトニンも減ります。そして、セロトニンの増やす方法としては、日光に当たることが大事です。
毎朝起きたらカーテンを開けて日光を浴びることが大切です。
読み終えて感じた、感じていた見解
以上、ざっくりですが、ごっそりと本書の殆どの内容を抽出し、自分なりにまとめてみました。
本編の通り、誹謗中傷するにはただの”性格”というわけではなく、人間としての”性質”があるという事がはっきりわかりましたね。
最近の流行りの言葉で捉えるのであれば、日本人というのは特に、自分が正義、グループを優先するという風な考え方にプログラミングされてしまっているという事ですね。同調してしまうのも、そういうクセがあるからです。
少し失礼な言葉選びなのは分かっていますが、恐らくそういう風にとらえるのも、対立し、正義中毒になるドーパミン発生を与え合うような状況を防げるのではないでしょうか?と感じます。
人間というのは、問題点を上げて、円グラフを作ろうとすれば満たせていない部分が合ってなんらおかしい事は無く、完全に補いきれることはありません。
もちろん、批判する人の中でも問題として取り上げていない部分が不足しているということもあるでしょう。
本書にも書いてありますが、やはり自分自身を客観視して、自分の感情を自覚するという事は大事だと僕自身も感じます。
自覚するだけでも、自身の感情の熱を冷ますことができます。素に戻ると「なんであんなに躍起になってたんだろう?」という感情を後々感じたような場面は意外と誰にでもあるのではないでしょうか?
人間というのは、その直前の状況にすぐ反応してしまおうとすると、感情的になりがちです。なので、一度経験したことがあることや、自身を俯瞰することによって、似たように後々冷めるという事が予想も出来るようになります。
そうすると少しムキになるのも無駄になってくると思います。
また、ほかの文献を読んで知ったことですが、自分自身の感じた事をペンで紙に書くと文字として同じように自身の感情を俯瞰することができるようになりますのでオススメです。毎日日記を書くというのも良いですね。
と言いつつも、実際のところ、紹介している『人は、なぜ他人を許せないのか』についてですが、そもそも自覚していない正義中毒者はこのようなホントは出会わないのではないだろうか?とも思います。
そもそも、本ですら読むでしょうか?
本というのは様々な思想が一冊だけでも豊富に記されているものです。
読んでいれば大抵の事は我慢できることだと思います。
それでは、そのような正義中毒者はどうすればいいのか?という事をここで長ったらしくすでになってしまっていますが、勝手に記させていただきます。
一言で言いますと、「今知識を得たあなた自身が考え方を与えればいい」、です。
人は正義中毒者は自身の思想に依存しているので、もし、出来るのであれば身近にいればあなた自身が軌道修正させるきっかけになる事が、一番思想の転換に期待ができるのではないだろうか?
SNSやネットでは、言葉が簡単に書けるが、結局そういう人というのは返事が欲しいので頑張って過剰に構ってもらえると思って強い主張を行っているケースがあります。それが誹謗中傷になっているとは自覚せずに。
なので、論争になってはいけませんが、新しい考え方と、その人自身の、状況を逆撫でしない程度に教えてあげることが有効だと思います。そして、その人に対して「こわい」や「イヤだ」と感じているという意思を匂わせることができると、対象が「こわがらせてしまっている」「嫌われてしまうかもしれない」という風に感じることでしょう。もちろんそれはやはり、理解の速い人であればです。
しかし、少しずつでもそういう誹謗中傷の束の一人でも減り、最終的になくなるという事が僕の理想です。
実際に、昨今その誹謗中傷の問題でアーティストやタレント、俳優の自殺が発生してしまっていると思います。当然、断言できることはできませんが、原因では無いとも断言できません。
当人たちからは永遠に確認する事はできないのですから。
本書には「人間は正義中毒になってしまう性質」と記されていますが、やはり、受け入れて放っておくような問題ではないので、それを受け入れた上で、改善するという方向に世の中の誰もが思えるようになればいいなと思います。
理想論ですが、実際になったとして悪い事ではないと思います。
しかし、人間のその反発しようとする性質が社会を発展させてきたのも事実でしょう。
その人間的心理が、誹謗中傷に発展せずに建設的な議論として言葉が生まれて、成長していけば良いなと思います。
最後まで長々とした文をお読みいただきありがとうございました。
それでは、ここら辺で。