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【小説】#村田沙耶香:著 短編集『生命式』「悩そのものを揺さぶる?」読了レビュー

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どうも、傍観梟です。
今回は、村田沙耶香さんの『生命式』という小説を読み終えたのでレビューしていきたいと思います。


 

今回の『生命式』という一冊はこれまで雑誌で発表してきた作品の中から12編を著者自ら選出し、一冊にまとめた短編集になります。

本の帯には様々な著名人からコメントが寄せられています。
作家、西加奈子さん
翻訳家、岸本佐知子さん
『フリーマンズ』編集長、ジョン・フリーマンさん
芸人、オードリー若林正恭さん

大注目されているということが分かりますね。

 

 作者の紹介
2003年に『授乳』で群像新人文学賞受賞し作家デビュー
2009年に『ギンイロノウタ』、2013年に『白色の街の、その骨の体温の』でそれぞれ賞獲得、
そして2016年には『コンビニ人間』で芥川賞を受賞しており、まさに実力のある作家です。
さらに、『コンビニ人間』は30か国での翻訳出版が決定されています。

作風は、性や人間の核心を突いた世界、人間を題材にした作品が多く、異常な世界観、感性が著書に多いことから作家、朝井リョウ西加奈子さんより『クレイジー沙耶香』と呼ばれて親しまれています(?)

 

では、作品の紹介をしていきたいと思います。

 目次

 


まず、本作の表題作
『生命式』から

 

『生命式』

人口が減少し、人類が滅びるのではないかと世界を不安にさせ、交尾という行為を”受精”という妊娠(人口を増やす)を目的とした行為として主流になり、人が死んだとき、お葬式ではなく、”生命式”という式を行うことがスタンダードとなった世界。
 →”生命式”とは
  式の参加者が、死んだ人間の調理された肉体を食べながら、”生命式”参加者の男女の中から”受精”相手を探し、相手を見つけたら受精を行い、”死”から”生”を生むことを目的としたことである。
主人公は、そんな人肉を食べることが当然になった時代についていけない女、”池谷”。
池谷は、山本という3つ年上、39歳、小太りの男とよく喫煙所でよく話をしていた。
山本は過去に人肉で当たったことがあり、人肉反対派ではないが、食べたくない派の仲間であった。
ある日、山本にあることが起こり、池谷はもう一人のある人間との出会いでその人間の影響により、ある決断をする――。

 感想
生命式――人肉食用にとして当然の世界にして、主人公の周りの人間たちがその世界を”受け入れている”という事をまるで当然のように言葉を紡ぎ、その流れの中での主人公の受け入れがたい感情からの最後に至るまでの葛藤が、人間の性を真新しく、そして分かりやすくつづらてていることには脱帽した。世界観、そしてキャラクターの徹底さ。40ページ程度のページ数で映画並みの的確な言葉選びでの説得、説明力のある文章には、村田沙耶香ワールドに現実があっという間に飲み込まれた。

 

『素敵な素材』


人の体の一部をファッション、インテリアに使われるという事が当然になった世界。
主人公、ナナはナオキとの結婚を控えている。
ナナが好んで装飾品に”人毛”のセーターを着て女子会から家に帰宅した際、ナオキから怒られるのです。
ナオキは人の体の一部を使われたものを”気持ち悪く感じる”人間であった。
ナナはナオキのために従って”人の一部”の使われたものは避けるようにした。
そんな葛藤の二人の間に、ある日、ナオキのお母さんからナナに花嫁用のベールを見せられる。
そして、そのベールの正体が何なのか知ったナオキの感情が動き、素敵な結末を迎えることに――。

 感想
『生命式』同様、奇怪・・・異質な世界設定を現実に踏襲し、さも当然とそれに馴染めないでいる存在(ナオキ)とのないまぜになり、葛藤させて気持ち良き軽快な結末まで持っていかれ、世界観にもやっと違和感を感じさせながら、物語にとてもすっきりと筋の通った簡潔な終わらせ方をさせ、かつインパクトのある作品であった。(いや、これに限らずこの短編集、一遍一遍どれもインパクトがありすぎます)

 

『素晴らしい食卓』


主人公、私から見た結婚の為家族の挨拶を予定している妹、久美のに対しての視点で語られる。
メインに置かれるのは久美で、久美は結婚相手とのお互いの家族の挨拶の際に、”故郷の料理”を振舞うことを事になっているという。
その、”故郷の料理”というのに、”私”の夫は反対をした。なぜなら、久美にはおかしなところがあったからだ。
それは、まず久美は、”魔界都市ドゥンディラスの能力者”であったからだ。いわゆる、彼女は中二病というそれの性格であった。
そして、魔界都市ドゥンディラスの能力者である久美は自炊をしていた。その自炊していた料理というのが、普通の人が食べるのが難しい料理だった――。
そして、いざそれを目前にした婚約相手の反応とは――

 感想
食べ物の好き嫌いについて次元を超えて考えさせるおつまみ的な哲学な話だと私は感じました。
じわじわとどうなるのか過剰な言い方をするとおぞましさを感じた。久美の作る料理が分かりやすく説明されているのが生々しく、読んでいる間、口が少しじゃりっとした味を感じた気がする。
しかしやはり最後には、爽快な展開により、しかし、まさに変態×変態・・・のマッチが良かった。

 

『夏の夜の口付け』


75歳になったばかりの芳子。彼女はセックスをしたことがなかった。二人の娘を人工授精により生み、夫を5年前に亡くし、娘二人は結婚し、一人で暮らししている。そんな老女と正反対な菊枝のもやっとさせて終わる一遍。

 感想
イレギュラーさながらのキャラクター設定。雑過ぎず無駄なく、しかし、必要最低限の文で説明しきっており、村田沙耶香さんの文章力を感じさせた一遍でした。

 

『二人家族』


『夏の夜の口付け』の続き。
芳子と菊枝は高校の同級生で、30歳になっても結婚できなかったら一緒に暮らそうという約束をしており、ルームシェアをしている。
30歳の時、精子バンクで買って受精して生まれた娘が芳子にいたりして、そんな生活について書いた一遍。

 感想
感じたのは『自由な選択』とはという言葉が浮かびました。
二人の素朴な生活がとても今の社会の将来に見えた気がしました。

 

『大きな星の時間』


女の子はパパに連れられて、とある遠い遠い国の小さな街に引っ越してきた。
そこは”眠らない国”であった。
そんな国で出会った男の子。男の子は、”眠る”という事に興味ある男の子。の不思議な時間。

 感想
キャスティングが的確is尊い。かと思ったらまさかの最後の一言には驚かされる。強い一言を持ってくるのがクレイジー沙耶香の醍醐味だ。たった3ページだけでこれほどの読みごたえを感じるとは思わなかった――。

 

『ポチ』

 

私とゆきユキには秘密のペットがいる。
”ポチ”が時々あげる鳴き声は「ニジマデニシアゲテクレ」。その正体とは――
 
 感想
ユキは平気そうに、ポチの頭や無精ひげを撫でまわしていた。
――”ニジマデニシアゲテクレ

 

『魔法のからだ』


中学2年生の少女と周りのクラスメイトの間で抱かれるセックスに対しての価値観が揺らめく学校の日常の一幕の物語。

 感想
俯瞰して落ち着いた主人公が多い村田沙耶香さん。そして、セックスというテーマ。
村田沙耶香作品としては村田沙耶香らしい王道的な内容であった。

 

『かぜのこいびと』


奈緒子は僕を、風太と呼ぶ。
とあるカーテンと女の子のとあるひと時。

 感想
一番冷静に読めた一遍。
複雑にはなる場面はあったが、正しくきれいに終わる。

 

『パズル』


あまり人にいら立つようなことのない早苗。
異常な元カレに付きまとわれる由佳。
誰にも優しい早苗は生態的に普通ではなかった、汗、便が得意ではなく、何か足りないと感じていた。
そして出会ったある人間により早苗は――。

 感想
大胆、豪快な結末にかたずをのんで読み終えました。
そして、主人公のような人間でなかったらどれほど現実世界では綺麗なものであろうかと思ったが、異常×異常の結末。どちらが勝つのかというワクワクにハラハラさせられた。


『街を食べる』


野菜が嫌いで食べられないが、新鮮な野菜なら食べられる気がすると思い、街中に、公園にできている”野生の野菜”蓬や蒲公英などを探し、見つけては食べてを繰り返すようになる。


 感想
じわじわと最後は終わる。彼女の中で浸透していく現象が生い立ちを含めて異質さを派手にではなくじんわりと表しており、気味の悪い物語であった。突き抜け過ぎず、落ち着いていながらの流れにもやもやさせられた。

 

『孵化』


アホカ、姫、ハルオ、ミステリアスタカハシ、そして委員長――それが主人公、ハルカの、人や場所によって与えられた人格のあだ名であった。
彼女は結婚式を控えており、そこに呼ぶ友達に迷っていた。そして、自分は”誰”で式に出れば良いのか。
ある日、』結婚相手に自分のこと打ち明ける。様々な人格を持っているという事を。
そんな彼女に対して彼の反応は――

 感想
一見共感できる主人公の設定だが、流石に過剰ではあるとは思った。そして、その物語にどんな結末を与えるのかは想像したのはどれか一つの人格を選んで結婚式を迎えるのかと思っていたが、ぐるんとひっくり返る。
村田沙耶香の特徴だが、平然と異常なキャラクターを主人公に持ってくるというのに、それを超える異常を持ってくるそのキャラクターを予想できず、まるで音楽のサビのような場面に入ったと思ったらあっという間に終わってしまっている。この瞬間的なながれがとても軽快であった。

 

 まとめ


はい。という事で、『生命式』の収録作品全編の解説、感想を書きました。

じゃあ、『生命式』という一冊の総合としての感想ですが、

一遍一遍考えさせられる一つのテーマを用いて余韻のある終わり方は秀逸だと思った。

苦みのある物語ばかり、物語の最後に迎える展開がパターンとして決まっており、「またこの流れか」と感じる読者は少なくともいそうですね。でも、確かに流れはあれど結論のそれぞれの特徴がちゃんと生々しく『人間』というのをジワリと提示しているようでクセになる。
物語のキャラクター、世界観が異質すぎで様々な種類の栄養が短時間で得ることができるというのがこの作品の魅力だと思いました。

異常ということを日常になじませたことにより、読者に影響を与えることでしょう。『普通』を疑うということに。

まるで、人間の心理、世界の真理の核心を突き、著者、村田沙耶香さんは訴えかけているような、そんな『言葉』を今作、過去作、毎回感じます。それがとても神秘的で、感性を研がれていく気がします。
『異常』を拒絶することと、受け入れることについての追及なのかもしれない。

そして、村田沙耶香という人間は、『異常』を『異常』として認識していながら、『異常』を受け入れていて、それを肯定しきっているのだろうと。

それを、文に起こし、そうして書物にすることにより、私たちに『共有』をし、僕らに見せている様々な物語で『村田沙耶香』はいったい僕らに何を求めているのか――。

その本当の核心を知りたいのであればこの小説を読むべきであろう。
もしも、あなたに今肯定することができない存在が居たとしたら、この小説を読めば、あなたの感性が、その存在に対しての人気が、もしかしたら変わっているかもしれません。……是非……………。


 

本書を読み終えた後、僕は「あゝ、ぜひこの作家の遺伝子が、欲しい……」と、そんなことを――――――

 

※当記事は傍観梟が過去に別のブログにて投稿した内容をそのまま抽出した内容になっております。

 

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